空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』10
FC2ブログ

空飛ぶバディネリ

♭ いろいろな読み物などを掲載します。リンクはご自由にどうぞ。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

『しずかちゃんの遺言』10

 『しずかちゃんの遺言』 (第10回/全__回)

<<前回           目次          次回>>

10.


 家に帰った私は、新作ドラ焼きのためのアイディアを書きためたスケッチブックを眺めながら、ぼんやりしていました。
 このところ、スネ夫からのアルバイト依頼が多くて、新作ドラ焼きを考える作業から気持が離れてしまっていました。営業もすっかりさぼりぎみでした。
 いろいろあってあせっちゃうなあ、と思いながら私は色鉛筆をにぎってスケッチブックに向かい、夜遅くまで作業を続けました。

 翌週、スネ夫から連絡が入り、月末に追加の調査を予定しているけれど来てくれないかと言われました。
 漢字を並べるのが好きなスネ夫は、その追加の調査に「入浴状況撮影調査」という名前をつけていました。やはり、しずかちゃんの入浴シーンの撮影を決行することにしたのでした。
 私が抱いた抵抗感は主には個人的な心象の問題であり、スネ夫は自分の仕事の成功が目的なのですから、それがベストの方法とは思えないまでもやむを得ないことでした。それだけでなく、この仕事にはしずかちゃん専門家委員会の先生たちがバックについているわけですから、入浴状況撮影調査が実行されるということは、その先生たちがゴーサインを出したということです。素人の私ごときがどんな意見を持とうが、どうでもいい話なのでした。
 私は、どうせ誰かがやることになるのなら、自分も使って欲しいと思いました。ちょっとズルい考えのような気もしましたが、どうせ私は、ジャイアンたちしずかちゃん調査のプロにくっついてまわり、雑用をする程度なのです。バチがあたるほどのことではないでしょう。
 その追加調査の日、私は「ドラ焼き食べ歩きの旅」という研究旅行に行くことにしていましたが、実際には全国のドラ焼き作りの仲間たちと会ってわいわい遊ぶようなものだったので、それを取りやめることにして、スネ夫からの依頼を承諾しました。

 ほどなくして、スネ夫から新しい調査計画表がとどきました。
 それは今まで決まっていた月一回三日間の調査に加え、さらに各月三日の入浴状況撮影調査という追加の調査が組み入れられたものでした。
 おどろいたことに、調査への参加を約束をした四月末のドラ焼き食べ歩きの日だけでなく、八月末まで、タケコプターという名前がびっしりならんでいました。
 奮起して久しぶりの営業にあてようとしていた日や、実際にお客さんと会う予定でアポをとってあった日にもみな、私の名前が書いてありました。他の誰かがやることになるくらいなら自分がやりたいと言って済むような話ではありませんでいた。
 新作ドラ焼きのアイディアがうまく出ず不機嫌だったこともあって、私は勝手に名前が入れられていたことがすこぶる不快でした。ビデオ撮影の思いつきを実現させたスネ夫に抵抗感を持ちながらも、しずかちゃんの入浴が見たいという思いから、結果としてそれに同調したバチあたりな自分に不愉快なのもわかっていました。
 ともあれ、あまりに一方的に作られた計画表だったので、スネ夫がちゃんと言ってくるまでは無視しようと決めました。

 その日の夜、電話をかけて来たスネ夫に、私は不快感を込めて言いました。
「ねえ、この僕の名前がずらずら書かれてるところは、この日程で僕にバイトしろって話なの?」
 スネ夫は、私の不快感に気付いたのか気付かないのか、ときどきやっている貧乏揺すりのリズムで答えました。
「うん、そういうことなんだけどね、今までの調査に加えて、追加の調査をやることになっただろ。いろいろばたばたすると思うんだ。でね、考えたんだけど、データ処理だけでなく、調査の準備や後始末などをふくめて、出来たら八月まで、月の三分の二をきみに基地で暮らして欲しいんだよ」
 なんだかとんでもない話が飛び出しました。
「コンピュータも運び込むからデータ処理もばっちりだし、わからないことがあっても電話もネットワークも完備してるから大丈夫。契約社員の形で雇ってお礼は月給の形で払うからさ。生活費は食費だけでいいんだから、月の終わりにはがっぽがっぽだよ。ここで稼いでおけば、直径三十メートルのドラ焼きだって夢じゃないよ」
 私は、どうにもうまく行かなかった新作ドラ焼きのスケッチを見つめながら言いました。
「そんなにたくさんの日数を拘束されると、ドラ焼きが作れなくなる」
 私は不快でなりませんでした。
 スネ夫は、そこをなんとかお願いできないかと言いました。
 私は三十メートルのドラ焼きなんて全く興味がありません。そんな妙なものを思いつくスネ夫のドラ焼き観は、ドラ焼きを理解していないの一言につきました。また、がっぽがっぽといっても、たかがしれたものです。その期間収入が安定するということくらいしかメリットのない、馬鹿げた話でした。
 とはいえ、泊まり込みは断ったとしても、スネ夫から自分が頼まれることになりそうな仕事が山のようにあることはわかっていました。さらにそれが増えそうなことも、計画表を見れば簡単に予想出来ました。
 もちろん、どの程度の日数の依頼を受けるかは、月給制の契約をしないかぎり私の答えひとつで済む話です。が、既に今でさえ、スネ夫から呼ばれる日はかなり多くなっていて、ドラ焼き作りを圧迫していました。スネ夫の要望通りとはいわなくても出来るだけのことはしたいと思い、新しい注文をとるのをひかえている状態にあったのです。

 スネ夫はその後、何度も何度も、例の契約社員の件を考えてくれたか、と私に問いました。
 いつものように、スネ夫ママが人手不足を助けてくれないという文句もたくさんつけました。会社のみんなの悪口も忘れずにつけました。人手不足は相当深刻なようでした。
 ジャイアンたちしずかちゃんの調査員も遠くからよばないといけないけど、その交通費がばかにならないんだよと、まるでその人が遠くに住んでいるのが悪いかのように文句をつけました。
 つまり、いつものスネ夫と同じということでしたが、ひとりぼっちで仕事をしているスネ夫は泣きそうな顔にみえました。
 私はいろいろ想像してみました。
 基地に住み込むとはいえ、夜には自由な時間があります。日々の注文に追われず、じっくり新作ドラ焼きを考えられるかもしれません。
 でも、やはり不安でした。
 ドラ焼きを作り続けていなければ、ドラ焼き屋でなくなってしまうからです。
 私はスネ夫に言いました。
「断ったら?」
「そう言わずにたのむよ。もし泊まり込みがどうしてもだめだったら、会社に通って作業してもらってもいいよ。どうせきみには仕事を頼むつもりなんだから、何も変わらないでしょ。月決めにしちゃった方が手続きが楽じゃない。他に頼める人がいないんだ。頼むよ」
 私はドラ焼き作りではひとりぼっちの気がしたことは一度もなかったのに、なんだかひとりぼっちだった気がしてしまいました。
「直径三十メートルのドラ焼きかあ。考えたこともなかったなあ」
 切り分けて食べるしか食べようのない巨大なドラ焼きなんて全く作りたくありませんでしたが、しずかちゃん調査に関わりだしてからおろそかになってしまっていたドラ焼きの仕事について、特に新作ドラ焼きをじっくり考えるいい機会かもしれないとも思いました。納得のいく新作ドラ焼きが出来ていないことに相当焦ってもいました。
 スネ夫のいう月末のがっぽがっぽというのがほぼ手つかずで残ることが確実に約束されるならば、古びかけている道具を新しくするいい機会になるかもしれません。実際、大鍋をかき混ぜる道具や、銀色に光る業務用冷蔵庫があったら、どんなにかいいだろうと思っていました。
 また、これだけたくさんスネ夫の仕事をしているということは、店を開けられない日がそれだけ多いということでした。注文生産がメインですから直接お店に来ていただけるお客さんはめったにないとはいえ、すでに大分失礼なことをしてきているはずです。これ以上休みが多くなるなら、期間をはっきり区切って店での販売を休止すべきでした。
 とうとう私は、
「わかった」
 と答えていました。
 自分自身、しずかちゃん調査にもっとかかわりたい、といった浮気心のようなものがあったことは否定しません。また、あまり好きでない営業活動をさぼる口実を得たような気もしていました。

 私は、あいまいな形だった注文は断り、営業を完全に休止しました。すでに注文を受けていたお客さんへの対応と、来月からの泊まり込みの準備に追われ、大わらわの日々を送りました。
 きれいに洗い終えた鍋釜を整理し、ステンレスの流しをピカピカに拭き終えたのはビデオ調査に向かう日の朝でした。
 私は、期間限定とはいえ、自分がドラ焼き作りとの別れを決心してしまったことに、ようやく気が付きました。急に寂しくなり、涙がちょっとこぼれました。
 けれど、もうひとつ、私の中に立ち上ってくる思いがありました。
 しずかちゃんに会いに行ける!


                             つづく...

<<前回           目次          次回>>

スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。