空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』12

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『しずかちゃんの遺言』12

 『しずかちゃんの遺言』 (第12回/全__回)

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12.


 夕食後、ミーティングルームには、ジャイアンたちが集まっていました。今回はビデオ調査のために組まれていたので、ジャイアンの数は半分でした。
 スネ夫がさっきからずっと電話をかけていたので、私たちは待機していました。
 テレビ画面には今日撮影したしずかちゃんの映像が映っていました。しずかちゃんは、湯船の中で前を向いたり後ろを向いたり、体をひねったりしながらストレッチ体操をしていました。ジャイアンたちは、そんなしずかちゃんの動きに会わせて歌の練習をしていました。
 私はといえば、もう来週からとなった住み込み生活にそなえ、必要となりそうなものをリストアップしてノートに書き込んでいました。ほとんど準備が済んでいるとはいえ、帰ったら細々した買い物などで大忙しになりそうでした。
 電話を終えたスネ夫が帰って来て、みんなに向かって口を開きました。
「えっと、あのう、追加調査についてなんですが」
「おう、どした」
 ジャイアンたちが振り向いてたずねました。
「あの、追加調査についてなんですが、あれ、だめでした」
「だめって、何が」
「追加調査、だめでした」
「だから、だめって、どういうことだ」
「追加調査のお金がね、つかなかったんだ。だから、追加調査は出来なくなりました」
「なにいっ?」
 ジャイアン達がつめよりました。
「調査が中止ってことか?」
「うん、そう」
「んなこと言ったっておまえ、おれたちゃおまえが追加調査やることになったっていうから、言われた通りに仕事の予定を組んでここに来てるんだぜ」
「でも、出木杉くんがだめっていうんだもん、しょうがないでしょ」
「なんで出木杉が出てくるんだ、俺たちはおまえと約束したんだろが」
「でも、でも、だって、出木杉くんがだめっていうんだもん」
「だから、なんで出木杉が出てくるんだって言ってんだよ。この仕事の約束はなかったことにするってのか?」
「そんなこと言ったって、出木杉くんがだめっていうんだから、しょうがないじゃないですかぁ」
 うがぁと言ってジャイアンがとびかかり、スネ夫は、
「ひいい」
と言って逃げ回りました。
「僕のせいじゃないもん。ひいい」
 その場にいたジャイアンの半分がスネ夫に殴りかかりそうになり、もう半分のジャイアンが止めにまわりました。
 泣きじゃくりながら話すスネ夫によれば、どうやらこういうことのようでした。
 湯船を発見したスネ夫が、張り切って追加の調査計画を出木杉くんにもちかけたはいいけれど、
「うーん、そういうことは僕の一存で決められることじゃないからね。でも検討はしてみるから。後で電話するよ」
 それがさっきの電話だったのでした。
 で、結果としては、急に追加調査やるからお金つけてくれって言われてもそんなのは無理。だけど、今の調査のお金をちょっと増やすことなら出来そう、という話だったらしいです。
 出木杉くんはこうも言ったそうです。
「きみの提案が事業化されることになったら、改めて入札から始まるわけだから、きみのところが受注できるとは限らないってのはわかってるよね。きみとしてもそうじゃない方がいいでしょ」
 出木杉くんの会社の予算の仕組みからいって、突然提案した調査事業がすんなり認められるなんてことが普通は無いことをスネ夫が知らないはずはありません。なので、湯船を発見したことで有頂天になっていたスネ夫が、よく考えもせずに人の手配を先にしてしまったということのようでした。絶対お金が付くと信じ込んでいたのかもしれないし、もしかしたら、こっちはもうこれだけの人員を確保してスタンバってるんだぞ、と出木杉くんに得意げにアピールしていたのかもしれませんが、少なくとも言えるのは、スネ夫が報酬を支払う充てが決まっていない仕事をそれと知らせず私たちに依頼してしまったということでした。
「しょうがないでしょ。ね、ね、ね」
というスネ夫に、ジャイアンがすごい剣幕で怒るのも無理のない話でした。
「おれたちは、おまえから頼まれて仕事の約束をしたんだぞ。出木杉と約束したわけじゃないし、おまえの家来でもねえ。おまえに奉仕するしもべでもなんでもねえし、出木杉のご機嫌とりの道具でもねえんだぞ」
 別のジャイアンが、しらけた声で口をはさみました。
「単純にあんたのミスでしょ。キャンセルするならキャンセル料おねがいねん」
 スネ夫が真っ青になりました。
 キャンセル料という言葉を聞いて、やっと自分がしょっていた責任の重大さに気がついたようでした。
「そういうこった。わかったな」
が、スネ夫は小さな声で、
「でも、だって」
と言いました。
「なにが、だって、だ。ちっとも、わかってねえじゃねえか。ぶっとばすぞぉ」
 ジャイアンが腕をふりあげると、スネ夫は「ひいい」と言って基地の窓からはるか彼方へ逃げて行きました。
 その姿をしばらく見送っていたあと、腕をおろしたジャイアンは、うってかわったしみじみとした口調で言いました。
「おれたちゃ、ゼニもらって仕事をするだけだ。スネ夫がおれたちを家来やしもべだと思いたいなら思えばいい。おれたちしずかちゃん調査員のプライドはそんなアホなことで汚されるようなもんじゃねえからな。約束した範囲の中で、やるべきことをこなすっていうだけの話さ。約束には信頼と責任が伴う。たったそれだけの単純な話よ。スネ夫は、これだけのことさえ何回言ってもわからねえんだけどな」
 テレビの中では、しずかちゃんが湯船の外に放尿していました。

 最終日のミーティング修了後、スネ夫がどんよりとした声で言いました。
「追加調査は本調査の内容の組み替えも含み、調製します。どうするかは追って連絡します」
 ジャイアンたちは、ぶっちょうずらのまま「はーい」と言って、とっとと帰りました。
 私はスネ夫がかわいそうになりました。
 ジャイアンや私が普通の筋道としてわかる話が、スネ夫だけいつになってもわからないということはこれまでもたびたびありました。
 ジャイアンはその全てを「バカだから」で済ませましたが、私にはそれが、スネ夫の中の自分ではどうすることもできない根深いものに起因しているような気がしました。そしてそれは、スネ夫自身の問題であって、スネ夫が自分で気付くのは不可能なタイプのものに思えたのです。
 が、こんなことを私が考えるのは、ひとの事を考える方が、自分のことを考えるよりずっと楽だったからでした。来週からどうしていいか、私には見当もついていませんでした。

 翌日、四月二十八日の金曜日、データ整理の作業をする約束になっていた私がスネ夫ママに行くと、案の定スネ夫は困りきっていました。
 私はあてがわれていた仕事を黙々とこなしました。もうずいぶんとたくさん集まっていたしずかちゃんのデータをパソコンに入力し終えると、モニタ画面にしずかちゃんの全体像がおぼろげに浮き上がって来ていました。しずかちゃんは、こっちをむいて笑っていました。
 私の後ろからスネ夫の声がきこえました。話している相手は経理のハナザワさんでした。
「これ、調査員の数を減らすしかないよねえ」
「あんた、もう頼んじゃったんでしょ。今後もお世話になるひとたちなんだろうから、キャンセル料払ってひっこんでもらうよう拝み倒すしかないんじゃないの」
 スネ夫がしぶい声で言いました。
「キャンセル料かぁ、うーん」
 スネ夫が突然私にたずねてきました。
「ねえねえ、七月とか八月とかならまだ先の話だから、キャンセルしたってキャンセル料なんか払わないでいいよねえ。ねえ、ねえ」
 私は、それまでの話が聞こえてなかったフリをした方がいいかどうか迷いましたが、ハナザワさんとの話と全くシームレスで来た質問だったので、気にしないことにして受け答えました。
「そんなの知らない」
 スネ夫はぶつぶつと小さな声で、「七月ならだいじょうぶでしょう」とか、「でもだってこれしょうがないことなのになあ」とかつぶやいた後に、
「やっぱり、ひと減らししかないな。問題は誰を切ったらいいかだ」
と私の返事と繋がりがあるような無いようなことを言いました。
「ジャイアンを切るか、ジャイアンを切るか、はたまたジャイアンを切るか・・・」
 私は切るという言葉が大嫌いでした。
 半分に切られたドラ焼きを思い浮かべてしまうからです。
 私のドラ焼きは、まるのままかぶりついて欲しいのです。刃物で切ったりしないで欲しいのです。
 切る切るいうスネ夫にいらいらして来た私は言いました。
「今になってジャイアンにそんな不義理を働いたりなんかしたら、ジャイアンが怒って今回の仕事全部から降りるって言いかねないじゃない。そしたら調査自体、出来なくなるよ」
 スネ夫はびくびくっと震え上がりました。ジャイアンが、違約金を払ってでも全ての仕事をやめかねない剣幕だったこと思い出したからだと思います。真っ青な顔をしていました。
「切るならどう考えたって、元お弁当係の僕じゃない。キャンセル料だって安く済むでしょ。ほかに誰がいるっていうのさ」
 そう言った私は、月曜日に基地へ行かなくていいことを確認し、スネ夫ママを後にしました。
 私は、仕事につく直前にクビになったのでした。


                             つづく...

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