空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』14

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『しずかちゃんの遺言』14

 『しずかちゃんの遺言』 (第14回/全__回)

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14.


 スネ夫の大ポカは迷惑この上ない話ではありましたが、湯船を探し当てて有頂天になってしまったあまり、配慮すべき大事なことがスポッと抜けてしまったという部分にはちょっと同情しました。
 私も、これだと思える新作ドラ焼きが出来たときに、食べる人のお腹の具合への配慮を欠いたまま試食を無理強いしてしまったことがあるからです。
 とはいえ、現実は、同情している暇など許さないものでした。必死で営業しても元通りにはまだほど遠い状態であり、事態は深刻なのでした。
 私はスネ夫にメールを書きました。
 キャンセル料というのがいくらになるか知らないけど、とりあえずそれがいつどのくらい入るのか知っておいて、今後の見通しを立てておかなければならないと思ったのです。
 スネ夫から返事がきました。
「お疲れさまです。当社にはキャンセル料の規定がなかったのでキャンセル料は支払えません。こっちのことは気にせず、そっちはそっちでドラ焼き作りにはげんでください。今後ともよろしくお願いいたします」
 私には、
「むう」
としか言いようがありませんでした。
 なので、
「むう」
と言いました。
 正直なところ、キャンセル料については、結果としてちょっとした迷惑料みたいなものだけになったとしても、それはそれでしかたないだろうと思っていました。
 スネ夫が、「でもだって」とか「しょうがないでしょう」とかいうのをやめてちゃんと謝って来たならば、いいよいいよ今度から気をつけてね、というだけで済ましてしまいそうな気もしていました。
 がしかし、普段のスネ夫の文句や悪口の中身から考えれば、仕事という場でのこういった人情っぽい感覚は激しく嫌うはずです。なので、後腐れの無いよう、ビジネスライクに済ませられるところは済ませてしまおうとスネ夫が考えそうな気もしていました。
 私は、もう一度、
「むう」
と言ってみました。
 つまりこの場合、スネ夫は自分の行為の意味をまだ理解していないと考えるしかなさそうでした。
 あのミーティングのとき青くなっていたのは、ジャイアンの言葉にただ怯えただけ。その後のスネ夫ママでのキャンセル料の話もハナザワさんの言葉を受けて言っただけ。それだけのことだったと考えるしかないようです。事態をちゃんとわかっていたら、こんな不義理を働くはずがないからです。わかりたくないことは、いつになってもちっともわからないというのも、スネ夫のクセでした。
 湯船を発見し、あれほど有頂天になってしまったスネ夫です。まだ頭の中が、あたふたしっぱなしなのかもしれません。
 ジャイアンのいうように、しずかちゃん調査員たちを自分の都合で動いてくれる兵隊程度にしか見ていないというのもあるかもしれませんが、そうだとしても、スネ夫の仕事は決してひとりだけで出来るものではありません。どんな場合でも不義理を働けば自分の首をしめることになるのは明らかでした。
 相手がプロのしずかちゃん調査員でない私だからというのも関係するかもしれませんが、スネ夫は私を必要として請い願っていたはずでしたし、それよりなにより、他でもないスネ夫の力になるならばという私の思いが出発点にあったのをスネ夫はわかっているはずでした。

 翌日、私はまたスネ夫にメールを出し、今回の件について自分がどう見てどう思っているのかを懇切丁寧に説明しました。ごたごたしたことになるのもいやなので、こんな場合に関係してくる法律についても一生懸命に調べて書きました。事情が許さないなら、知らない仲じゃないんだしいくらでも妥協するつもりはあるけれど、まずはスネ夫がどう考えているのかをちゃんと教えて欲しいと書きました。

 すると、スネ夫があっさりあやまりの電話をいれてきました。
 そして、キャンセルでスケジュールを空けさせてしまった分については、新たに仕事をお願いする形で補填します、と言いました。
 しずかちゃん調査の計画全体を再調整したところお願いしたい部分が出てきたということと、他に、ナカジマやカオリちゃん関係の仕事でも人手が足りないものがあるから手伝ってもらいたいとのことでした。
 私は一度あきれはてたあとでしたから、とりあえず、スネ夫が自分の犯したミスについてきちんとわかってくれることが先で、補填の話はその次の話だと言いました。
 スネ夫は、
「それはわかりました。すいませんでした」
と言いました。

 明くる日、またスネ夫から電話があり、補填の仕事をお願いしたいのでスケジュールを調整して欲しいと言ってきました。
 そして、とりあえずの話として、しずかちゃん調査を幾日か分と調査後の内勤としてデータ処理の仕事を私に宛いました。カオリちゃんやナカジマ関係の仕事については、調整中とのことでした。
 今のところ十分な話ではありませんでしたが、あとは追々決まってくることでしょう。
 まあ、実際のところ補填というのはどういう意味かというと、簡単に言えばスネ夫のミスをなあなあで取り繕おうということです。
 出木杉くんの会社から出るお金をやりくりして、しかも、私の時間と労働力を使うことにより私の被害を穴埋めするということです。
 私が予想していたビジネスライクな後始末とはまるで違うものでしたし、現実的な話として、明日以降全ての日に仕事を入れてもらったとしても、もう取り返せない分がかなり出てきてしまう計算になります。が、スネ夫なりの苦肉の策であるのでしょう。
 今回のスネ夫のミスは、スネ夫ママも困らせることになってしまったはずです。けれども、それなりに予算の上乗せがあって仕事も発生したということのようですから、あとはキャンセル料の形での出費を押さえられればそれが一番だというところなのだと思います。
 私は、いろいろ考え検討した末にこういう姑息な代案に行き着いたスネ夫のことが、少しだけかわいらしく思えました。
 スネ夫はやっぱスネ夫なんだな、スネ夫らしいや。
 そう考えると気分が少し落ち着きました。これを機に、次からは同じことを繰り返さなければいいのです。
 既に無報酬のまま過ぎてしまった私の時間や、私が私のお客さんにかけてしまった迷惑については取り返しがつきません。また、お互いの被害を最小にするための妥協案としてスネ夫の提案を考えたなら、完全に一方的でしかないものです。
 でも、私たちは幼稚園や保育園の昔から手をかえ品をかえ教え込まれてきたはずです。信頼感で繋がってさえいれば、ひとつやふたつのトラブルなど、どうとでもなるということを。多少損をしたところで、いつの日か、より大きなものが得られるはずなのです。もし、その日が永遠にやって来なかったとしたって、そんなのたいした問題じゃありません。楽しみにしていられる期間がずっと続くだけのことです。
 私は小学校や中学校で教えられてきたことは何一つ記憶にありませんが、幼稚園で学んだことはちゃんと覚えているし、信頼しています。実際私も、そんなふうにして助け助けられ、ドラ焼きを焼いてきたのでした。

 私は、スネ夫に話をわかってもらえたことで、いくらかマシな気分になっていました。スネ夫にしても、わけがわからないままみんなを怒らせてると感じて恐れている状態より、ずっとすっきりしたことでしょう。ミスはミス。あとは、その後をどううまくやっていけばいいかです。
 調査ではみんなで酒を飲む機会もあるだろうから、そのときにでもスーパーマンさんに教えてもらった大切なことをスネ夫にも伝えてあげたいと思いました。
 でも、いきなり「まごころ」なんていうのは気恥ずかしいし、あまりに場違いだと思いました。
 なので、かわりにいいことを思いつきました。
 もうこの先作ることはない「絶対ドラ焼き」の試作品をみんなにふるまってあげようと思ったのです。
 あいかわらず私の本業は先の見通しがたたずひどいありさまでしたが、営業面はともかく、新作ドラ焼きのアイディアがうまく出て来ないのをスネ夫のせいにするのはスジ違いです。
 私は、僅かずつでも仕事のあてができたことにほっとしました。これを繋ぎとして、たとえゆっくりでも、ちゃんとドラ焼きを作れるようにしていこうと思いました。
 月末にはまた、しずかちゃんに会いに行けます。
 このことは、久しぶりに私を嬉しい気分にしてくれました。今の私にはこれが一番ありがたいことでした。
 ドラ焼きを焼くにしても何をするにしても、嬉しい気分が無いことには、たいていうまくいかないからです。


                             つづく...

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