空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』17

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『しずかちゃんの遺言』17

 『しずかちゃんの遺言』 (第17回/全__回)

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17.


 しずかちゃんとの接近遭遇の件を調査票に書くべきかについては、その日の夕方にスネ夫に電話をしてたずねてみました。
 私は、ジャイアンに話したときと同じような調子で話し、感動したと言ってみたところスネ夫は本気で怒り出しました。
「そんなこと、報告書に書けるはずないでしょう。いったい何考えてるの」
 わざわざ怒らせるようなことを言ってしまったのは、絶対ドラ焼きを台無しにしたスネ夫に対する意地悪な感情が芽生えていたからだと思います。が、ジョークまがいの軽口を真に受けられてバツの悪い思いをするのが私であるという点については、いつも通りのことでした。
 そのあと私は、六番地点近くの泉はしずかちゃんの生活にとってとても大切な場所じゃないかと思うと告げました。が、スネ夫はあいまいな口調で、ふうん、と言った後、
「じゃあ、あとはこっちで処理するから記録表には書かなくていいよ。重複しちゃうからね」
と言いました。
 その泉のある場所が、温泉センター本体の建設予定地のまさに真ん中であることを私は知っていました。しずかちゃんの大切な場所であってもいずれ整地されちゃうことになるんだろうなあ、と思いながら貧乏揺すりをしているらしいスネ夫の声を聞いていたら、突然、奇妙な妄想というか、白昼夢が思い浮かんでしまいました。
 細部まで詳細すぎるその白日夢の襲撃に私はいつのまにか頭をかかえてしまっていて、
「どうしたの? 電波? 圏外?」
と、不思議そうな声を出すスネ夫に、なんでもない、と言って電話を切るのがせいいっぱいでした。
 本当に馬鹿げた白日夢なのですが、ちょっと聞いてください。こんなのです。

 完成した温泉センターのロビーには紅白のテープが張られていました。タキシードを着込んだおじいさんたちが何列にもなって整列し、そのすみっこに得意そうに胸を張ったスネ夫がキョーツケしていました。彼らの背後には巨大なショーケースがあり、その中では何匹もの動物たちがゴルフに興じるポーズをとっていました。プレーヤーはタヌキで、キャディーはクマ、ボールはヤマネ、カモシカとイノシシとウサギとイタチ、そしてナイロン糸で宙づりになったムササビはギャラリーでした。その全員が、毛皮の中にどうでもいいものを詰め込まれた死体、つまり剥製でした。
 ならんだおじいさんたちの前では、小降りながらも豪勢なビクトリア朝デザインの噴水がちゅうちゅう水を噴き上げていて、明滅する青や緑やピンクのライトに水の中から照らされていました。池の脇には真っ赤な布をかけられた大小ふたつの物体がありました。
 頭をぴかぴかに磨きあげたおじいさん三人が前に出てきました。仲良く一緒に紅白のテープをはさみでちょんぎると、ファンファーレが鳴り響きました。赤い布をかぶった物体のうち細長い方の布がはぎとられ、四角い台の上にのったブロンズ製の裸婦像が姿を見せました。大きな拍手が巻き起こりました。裸婦像はしずかちゃんを模したもののようでしたが、胸や腰のあたりだけがテレビアニメより成長した姿になっていました。緑色の不健康そうな顔でアハンというポーズをとり、高いところからみんなを見下ろしていました。
 もう一度ファンファーレが鳴ると、さっきとは別のおじいさんふたりが前に出て、グレーのケーブルに繋がった白い小箱を胸の高さに掲げました。その小箱には自爆ボタンのような赤く大きなスイッチがついていました。そして、スネアドラムのトレモロを合図に、ふたり仲良く指をあわせ、ぽちっとスイッチを押しました。
「こんにちは! ようこそいらっしゃいました!」
 傍若無人に快活元気なアニメ声が流れて小さい方の赤い布がはぎ取られると、張りぼての岩の上に脚を斜めにそろえて腰掛けるABS樹脂製等身大しずかちゃん人形が現れました。鈍いモーター音と共にしずかちゃん人形がウインクしながら髪をくしけずりはじめると、大きなどよめきと共に再度拍手が巻き起こりました。しずかちゃん人形は、ブロンズ像よりもさらに大人の体つきで、スケスケ素材の白い衣装一枚のみを身にまとっていました。髪をすく動作のために手が動くと、衣装に開いた何カ所ものスリット部分がひっぱられ、隙間から肌が露出する設計になっていました。
 しずかちゃん人形は、ウインク一回、髪すき一回という動作を五秒間間隔で正確に繰り返しました。ですので、胸のスリットからおよそしずかちゃんには似つかわしくないおっぱいが剥き出しになるたびに沸き上がる、おぉぉ! という歓声もまた、完璧に五秒間隔でした。
 軍艦マーチそっくりな軍艦マーチでない曲がかかり、スネ夫が運動会の入場行進の歩き方で登場しました。「Welcome! しずかちゃんミニ秘宝館」という達筆の筆書き看板を誇らしげにかかげていました。看板の縁はピンクのハートで飾られていました。しずかちゃん人形の前に来たスネ夫が足踏み止まれをし、看板を所定の位置に取り付けると、ハート型の飾りがペカペカ点滅し始めました。が、その看板に天井の赤外線センサーが反応してしまい、再び、
「こんにちは! ようこそいらっしゃいました!」
という快活元気なアニメ声が鳴り響きました。
 センサーが看板に反応し続けているので、その声は五秒おきに繰り返され、おじいさんたちのおっぱい歓声と呼応しました。
こんにちは! ようこそいらっしゃいました!
おぉぉ!
あたし、しずかよ。ゆっくりくつろいでいってね!
おぉぉ!
こんにちは! ようこそいらっしゃいました!
おぉぉ!
あたし、しずかよ。ゆっくりくつろいでいってね!
おぉぉ!
こんにちは! ようこそいらっしゃいました!
おぉぉ!
あたし、しずかよ。ゆっくりくつろいでいってね!
おぉぉ・・・

 私は、自分に予知能力があるかもしれないと思いました。ほんのちょっぴり、そう思いました。


                             つづく...

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