空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』19

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『しずかちゃんの遺言』19

 『しずかちゃんの遺言』 (第19回/全__回)

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19.


 差出人は、漢字が四文字の難しい名前でしたが、おそらくコロ助と読むんだと思います。
 コロ助の手紙は私にはなじみのない文体でとても読みづらいものでしたが、だいたいこんなことが書いてありました。

「あんたとスネ夫ママの契約は成立してないナリ。だからあんたが要求しているキャンセル料なんて、払う義務は一切ないナリ。これからは吾輩がスネ夫ママの代理人ナリ。何か言いたかったら吾輩に言うナリ。スネ夫と直接連絡とろうとするのも一切だめナリよ。この紛争の円満解決を望んでいるナリ。七月二十一日、弁護士、コロ助」

 コロ助は弁護士なのでした。
 私に住み込みを求めていた五月からの調査の件は、実行されるかされないか全くわからないただの計画に基づく打診段階の話だったから、というのが契約不成立の理由でした。
 ついでの話として、そもそも請負い仕事なのでキャンセルしても賠償の義務なんて生じないよ、と付け加えられていました。
 これまでスネ夫からきいていた話と、まるでかみ合っていませんでした。

 実はこの手紙を受け取るちょっと前に、私はイササカさんに呼び出されて話をしていました。
「この度は、うちの会社のスネ夫がタケコプターさんに迷惑をかけてしまったようで本当に申し訳ありません。つい先日スネ夫から事情を聞いた私は、もう、びっくりしましてね、なんとかうまく解決出来ないかと思っていたところ、私たちのスキをねらって、スネ夫がスネ夫ママに泣きついてしまったんですよ。ええ、あのスネ夫ママに。だから私には、もうどうすることも出来なくなってしまいました」
 ということは、それまでの間スネ夫は、スネ夫ママに気付かれないよう自分の失敗を誤魔化そうとしていたということになります。当社のキャンセル料の規定云々といった話もそのひとつだったのでしょうし、あの補填の話もスネ夫の判断でこっそりやっていたミス隠蔽工作でしかなかったのでした。
 スネ夫は自分のミスを認めた上での補填だと私に言ったはずでしたが、スネ夫ママの中では、ただの単発の仕事の依頼でしかなかったのです。あのミスの話はなかったことになっていたのでした。
「スネ夫はナカジマやカオリちゃん関係の仕事がたくさんあると言ってましたけど、あれは嘘だったんですか」
「いえ、確かにカオリくんたちや私も人手を探してました。今になって思えば、彼の様子にちょっとおかしなところがあったんですよ。自分の仕事以外興味無い彼が、私たちの人手不足を妙に気にしてましたからね。けれども、その仕事をタケコプターさんに出してくれと頭を下げることが彼には出来なかったんでしょう。自分のミスをおおっぴらに告白することになりますから。たぶん、私たちの間で、タケコプターさんにお店を休んでもらってお願いするしかないだろうって話が出てくるのをただじっと待っていたんだと思います」
「で、手配のつかなかった一日分だけ、僕のところに話がきたというわけですか」
「ええ。こちらとしてはいつも通り、遠慮しながらのお願いでした。なにせ、タケコプターさんは本業で忙しいはずと思っていましたから」
 私はカオリちゃんからの依頼で出かけた調査を思い出しました。
 カオリちゃんとふたり、夜明けから日没までたくさんの川をめぐって、どの川がどのくらい泳ぐのに適しているかを調べてまわったのです。
 終わったときには泳ぎつかれてクタクタでしたが、あんなに楽しい仕事は初めてでした。
 カオリちゃんも楽しかったと言っていました。
「都合が合ったら、またお願いね」
と、ずぶぬれの髪にタオルをあてる作業水着姿のカオリちゃんに、
「こちらこそ、是非また機会を作ってくださいな」
と、水泳パンツをジャージャー絞りながら言ったのを覚えています。

 私はため息をつくしかありませんでした。
 スネ夫がなぜ突然スネ夫ママに泣きついたのかについてたずねてみると、そのきっかけは私だとのことでした。
 補填策の破綻後、スネ夫から内容のある返答をちっとももらえないことに我慢が出来なくなった私は、何をどれくらいどうしようとしてるのか、ちゃんときみの考えをきかせてよ、と言いました。そのときの、「何をどのくらい」に反応したというのです。
 もちろんスネ夫は、私に与えた被害がどれくらいになるか最初から知っていたはずですが、それを私から言われたとたんに、あわてふためいてしまったということなのでした。ちゃんと考えると怖いので考えないようにしていたら、忘れてしまったということだったのかもしれません。
「で、スネ夫ママはなんて言ったんですか?」
「『スネちゃんをいじめたらゆるしませんザマス』です。申し訳ない、こうなるともう、私には手がつけられません。全く手がつけられないんです」
 イササカさんはそう言って肩を落としました。
 が、その肩は落ち過ぎてしまっていましたので、私は酒でも酌み交わして元気づけてあげたいと思いました。けれども、イササカさんはお酒を飲まないひとだったので、食事をした後は別れるしかありませんでした。
 イササカさんを見送っていたら、カオリちゃんたち職場のみんなの文句をいい続けているスネ夫のことが思い出されました。
 スネ夫は、カオリちゃんと一緒に働いていて楽しく感じたりすることは無いのかなと思いました。


                             つづく...

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