空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』20
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『しずかちゃんの遺言』20

 『しずかちゃんの遺言』 (第20回/全__回)

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20.


 その夜、私は夢をみました。

 スネ夫が私の目の前にいました。
 正面から、私を見据えて言いました。
「ねえ、きみはなんで僕のことをスネ夫って呼んだの?」
 私の口にはなぜかドラ焼きがいっぱいに詰まっていたので、答えることが出来ませんでした。
 もういちどスネ夫が言いました。
「ねえ、きみは僕をスネ夫にしたかったの?」
 私はドラ焼きを口に詰め込んだままぷるぷる首を横に振りました。
「僕はスネ夫なの?」
 私はドラ焼きを口につめこんだままぷるぷる首を横に振りました。
「じゃあ、僕は誰なの?」
 私はドラ焼きを口につめこんだままぷるぷる首を横に振りました。
 目が覚めると、ドラえもんがいました。
 ドラえもんは、お腹の四次元ポケットをぱたぱたと開いたり閉じたりしながら言いました。
「どうする? そろそろ戻ってくる?」
 私の口にはなぜかドラ焼きがいっぱいつまっていたので、答えることが出来ませんでした。
 私は首をぷるぷる横に振りました。
 ドラえもんは、開いた四次元ポケットの中を五秒くらいのあいだ黙ってのぞき込んだあと、ぱたっとそれを閉じて言いました。
「そう。わかった。じゃあ、おやすみ」
 目が覚めると、部屋のすみっこにスネ夫がいました。
 スネ夫は、ひざをかかえてしゃがみこんでいました。
 そして、ふう、とひとつ長いため息をつき、
「僕はスネ夫になりたかった」
と言いました。
 そのとたん、スネ夫の陰からもうひとりスネ夫が現れて、
「誰だい、スネ夫って」
と意地の悪そうな声で言いました。
 そのとたん、スネ夫の陰から三人目のスネ夫が現れて、
「誰だい、スネ夫って」
と言いました。
 そのとたん、スネ夫の陰から四人目のスネ夫が現れて、
「誰だい、スネ夫って」
と言い、「誰だい、スネ夫って」と言う声の度にスネ夫はどんどん増えていきました。
 あれよあれよというまにスネ夫は何十人にもなり、ひざを抱えてうずくまっていたスネ夫は見えなくなってしまいました。
 私は大声をあげてスネ夫を呼びました。
「スネオォォォォ!」
すると、たくさんのスネ夫たちはみな、
「だって僕のせいじゃないもん。けけけ」
と言って消えました。
 目が覚めると、真っ暗闇の中から誰かのひそひそ声が聞こえました。
「とはいえ、善人ぶってるんじゃねえって言いたい気もするな」
「やめなよ、それこそ無理な相談だって」
「そうかな」
「そうだよ。別に、ぶってるってわけじゃないんだから」
「でもなあ」
「しかたないって。彼は彼なんだってことなんだよ」
「この無知さもか? このバカさ加減もか?」
「そうだよ。だって、彼は彼なんだから」
「でもそれでいいのかねえ」
「いいか悪いかなんてのはまた別の話。まあ、もうちょっと待ってみようよ」

 そこで私は本当に目が覚めました。
 目が覚めても、そこは真っ暗闇でした。
 朝はまだまだでした。

 翌日の午後、お店にスネ夫のママにそっくりな人がドラ焼きを買いにきました。
 スネ夫のママにそっくりな人は、スネ夫にそっくりな人をおんぶしていました。スネ夫にそっくりな人は、鼻水をたらしながら、スネ夫のママにそっくりな人の頭をポカポカたたいていました。
 ちょうど私は今朝見たスネ夫の夢を思い出していましたので、スネ夫にそっくりな人が来たところで特に不思議な気はしませんでした。
 スネ夫のママにそっくりな人は、私の手からドラ焼きの入った包みを受け取りながら、
「毒なんて入ってないザマスよね」
と言いました。
 もちろん私は、そんなもの入っていませんと言おうとしましたが、急に自信が無くなり、
「わかりません」
と言ってしまいました。
「あ、そ。まあいいザマス。じゃ、これ」
 スネ夫のママにそっくりな人は、私の手のひらにチャリンとお金を置きました。
 背中におぶさったスネ夫にそっくりな人は、私にあっかんべーをすると、またスネ夫のママにそっくりな人の頭をポカポカたたきだしました。

 お店のパイプ机の上には新作ドラ焼きのためのスケッチ帳が置いてあり、スネ夫ママそっくりな人を見送った私は、それをぱらぱらめくってみました。どのページのドラ焼きも、すっかり色あせたつまらないものに見えました。
 しずかちゃんで頭がいっぱいになったり、絶対ドラ焼きなんてものを考えていたうちに、ドラ焼き作りがすっかり私から遠のいてしまったようでした。
 私は、スネ夫にとっての自分はなんだったのだろうと考えました。スネ夫が私の名前を呼んだことがあったっけ、と思ってみたとき、少しギョッとしました。
 あったようななかったような、うまく思い出せませんでした。
 ときに人一倍ひとなつっこい様子を見せて、得意の悪口や文句などを楽しそうにおしゃべりするスネ夫でしたが、私が話す話については、さっぱり聞いていなかったり、聞いていてもまるで理解してくれてないということがよくありました。スネ夫には私が見えていなかったのかも知れません。目の前にいるのが私でなくても全く構わなかったのかも知れません。自分を攻撃してくる存在でさえなければ、どうでもよかったのかも知れません。
 スネ夫の笑う顔が懐かしく思い出されました。
 スネ夫だって笑うんだよな、と思いました。
「スネ夫にとって、僕は誰だったのだろう」
 私はそう口に出してつぶやきました。
 なんだかひどく悲しい気分でした。
 私は厨房に入ると、作りかけのドラ焼きを全て捨てました。
 何もかもが残念でしかたなく、私は厨房のすみっこで膝を抱えてうずくまりました。


                             つづく...

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