空飛ぶバディネリ 『青い巣』(第6回/全16回) by AntennaMan
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空飛ぶバディネリ

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『青い巣』(第6回/全16回) by AntennaMan

『青い巣』(第6回/全16回) by AntennaMan

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 僕の部屋は青い世界だ。
 金色の西日がアマモの揺れに遮られてちらちらする夕方もきれいだけれど、なんといっても、朝、日の出る前の青色が素晴らしい。どう形容したらいいのだろう。ラピスのように無機質で、ゼリーのように切り取れそうな、澄んだ密度の高い青だ。
 最近僕が気に入っているのは、そんな時間に海藻の森に身を沈め、ジャック・マイヨールのビデオをみること。
 いったいどこがおもしろいの、と全く興味を示さないサアは、正しい姿勢で眠ったまま扇風機の起こした流れにのって僕とテレビ画面の間をゆっくり通り過ぎて行く。いつからか住み着いた小さなクラゲがその後ろをついてまわり、僕は、まぬけなのと平和なのと幸せなのはそれほど違わないことかもしれない、なんて考える。
 隙間なく詰まった空間がゆっくりと流れ、コロイド状の時間が静かに通り過ぎて行くなか、宇宙の光りが朝の青色に拡散してゆく。

 そういえば、水の中で暮らし始めてから僕の音楽の好みはだいぶ変わった。
 夜の水中ならサティーのジムノペディで、月の具合によってはドビュッシーや日向敏文を定番として迎えてしまうのはそれなりに理解してもらえるだろう。が、空気でなく水の振動を介して聴く音楽は、体への感じ方がかなりダイレクトになるために陸上とは聞こえ方が異なってくるのだ。音域にもよるが、極端な話、眼鏡屋でジリジリいっている超音波洗浄器の中にいるようなものだと思ってもらえばいいかもしれない。
 今のところバロックからロマン派前期にかけてのクラシック音楽と、ちょっと古めのレゲエやアフリカ系、特にトーキングドラムの入っているのが気に入っている。意外だったところでは、『南部牛追い歌』など、ゆっくりめの民謡のリズムも体にしっくりきていい。
 派手なロックは大音量できくとマッサージがわりになってそれなりに重宝しているのだが、その系統をあまり聴き続けるのは体に悪そうだ。ビリー・ジョエルくらいがちょうどいい。
 悪いといえば、一番は喜多郎とかいう人の古いシンセの音楽で、ふとラジオから流れてきたときには身体中が鉄条網にまかれたようにしびれてしまって以後気をつけるようにしている。他の人工音系のα波ミュージックも頭が狂いそうでよくない。
 もちろん、マーラーのシンフォニーもだめだ。あれは、びっくりする。

 「よう、おまえにぴったりの仕事があるぞ」
 ニカウさんのビデオをもってサアに会いにきた斎藤がいった。
「仕事って、探してくれてたのか」
「いや、たまたまさ。なに、俺の会社の関係で管理しているダムのことなんだけどな、今度潜水夫雇って導水管の掃除するってんだよ」
「掃除?」
「ああ。トビケラの幼虫の巣がびっしりくっついてるものだから、とってやらないといけないらしい」
「なんだいそれは」
「トビケラの幼虫は知ってるだろう。ほれ、よく川釣りの釣りの餌で使う黒いイモムシみたいなやつだ。石の裏に砂粒なんかで巣をつくってるやつ。それが大量にくっついて水の流れを悪くするんだ」
「へえ」
「どうだ、おまえにピッタリだろう」
「ダムか。めちゃめちゃきれいならいいけど、そうじゃなきゃその水で息するのいやだな」
「アクアラングつけるに決まってるだろうが。みんなびっくりする。おまえ、水の中の身のこなしはばっちりだろうからどうかと思ってさ」
「だめだ。ダイビングの免許がない」
「免許か。免許ねえ。おまえがいうと不思議だが、まあ、そのくらいなんとかなるんじゃないかな。ひょっとしたらどこかの潜水屋通すことになるかもしれないが。どうだ」
「ま、考えとくよ」
「ああ、マジで考えてくれ」
 そのとき背中に軽い水圧を感じた。サアがやって来たのだろう。とたん、斎藤の目が泳ぎ出すのがわかる。
 斎藤はサアを見たがりはするのだが、見ることにどこかしら恥じらいみたいなものを持っているらしいのだ。愛もないのにヘンなやつだ。
 振り向けば、大きな目をキラキラさせたサアがいて、金太郎飴ありがとう、今度は銀次郎だね、と昨日あたりから凝り始めたタイプの冗談を使って斎藤にお礼をいった。そして、いつもお買い物頼んじゃってごめんね、と爽やかな笑顔を浮かべたまま続ければ、斎藤が胸をどんと叩いていった。
「サアのためならたとえ火の中水の中、あ、おれ水はだめだった、わはは」
僕はあきれ顔をつくっていう。
「おもしろいじゃないか」
「だろ?」
得意げに親指をたてて見せる斎藤に、サアが異常にウケた。大笑いの顔もとても素敵だ。

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