空飛ぶバディネリ 『青い巣』(第12回/全16回) by AntennaMan
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空飛ぶバディネリ

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『青い巣』(第12回/全16回) by AntennaMan

『青い巣』(第12回/全16回) by AntennaMan

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 ちょっと頭を冷やす必要がありそうだ。
 部屋の中が仔魚でいっぱいなのは事実だ。それと、サアの他に子供を生むような存在はいない。ケガニがここへ来たときから抱いていた卵を放出したのだとしても、それはそれで区別がつくだろう。では、人魚の子供は卵から孵るのか。
 下半身は魚なのだからそうなのだろう。じゃあ、あの乳房はなんのためだ。この魚にしかみえない小さな子供たちが母乳を飲んで育つようには思えないが。
 いや、僕だって乳首はあるし、乳房の大きさは母乳の出とはあまり関係がないらしいからあてにはならない。ひょっとしたら、大きくなってから母乳を欲しがるのかもしれない。でも、あれが僕とサアの子供ならなんでまるきり魚なのか。
 人間だって発生の初期はほとんど魚と同じような形態だというし、だいたい、産んだサアの下半身は魚だ。しかし、その前に僕はサアを妊娠させた覚えなどまるきりないが、それはどういうことだろうか。
 彼女の下半身は魚だ。始めから卵はもっていたのだろう。成長の具合や季節変化の刺激で勝手に卵を作りだしてもなんら不思議はない。ひょっとしたら僕と生活を始めたのがそのきっかけになったかもしれない。それじゃあ、この子供たちは本当に僕の子供なのか。
 確かにあのとき、僕はサアに向かって射精した。性的な快感とは全く別物だったと思うが、放精したことにはかわりはない。水着が溶けてしまっていたことは、それを有効なものにする何らかの機構が働いたと思えばまさにそれらしい。でも本当に受精がそこで起こったのだろうか。
 単位生殖。それはありうる。たしか、ある種のフナだったかは、他の魚の精子の刺激だけで発生を開始するのだ。遺伝子の融合は全く起きない。しかし、本当に受精していたとしたら‥‥‥。
 そこまで考えた僕は、自分の考えていることが全く馬鹿げていることに気がついた。どうに生まれた子であれ、サアと僕が暮らし始めて生まれた子供であることにはかわりがない。それに、サアが無数に泳ぐ仔魚に向けるまなざしは、親の愛情以外にいったいどんなふうに見える?
 僕が、サアが水のなかでタバコを喫っているなどと馬鹿げたことを思っていたとき、彼女は身のまわりに卵を散らして酸素を送っていたのだろう。とするとケガニは僕に手をふっていたのではなく、おこぼれにあずかって食事をしていたということになる。
 僕は考えるをやめにした。
 なにもかも、全ては愛の力に違いない。

 少しくらい平気よ、というサアの口からも、実際仔魚が出たり入ったりしていたが、僕にはどうもそうする気持ちになれなかった。サアは、優しいのね、というが僕にしてみればやはり子供を食べてしまうのは抵抗があるし、肺の中で泳ぎまわられるのもぞっとする。また、ともすれば自分の精子を飲み込んでいるような気がしないでもない。子供達は、テレビでみた人間の精子とまるで同じような泳ぎ方だったのだ。
 僕は肺の水を追い出して空気で呼吸するようにし、寝るときは顔が水から出るよう天井に紐で固定した。昼間は息をとめて水の中を泳ぐようにした。
 久しぶりに斎藤が訪ねてきたが、へえ、やっと水からあがる気になったか、といっただけで子供が目に付かなかったばかりでなく水着が新しくなっていることにも気付かなかったようだった。子供が出来たと打ち明ける気にもならなかった。幸いなことに、というか、サアは子供にかかりきりになっていて、彼に挨拶もしなかった。

 日夜子供の教育に専念しているサアだったが、その口調からいってかなりに何かの影響を受けたものらしい。初めての子育てなのだろう。
「いい? あれは、テレビ。こっちが、ワカメ。その向うにあるのが扇風機よ。扇風機はまだ危ないから近寄っちゃだめね。で、ここにあるソファーは人工皮革なの。いい? ジ・ン・コ・ウ・ヒ・カ・ク‥‥‥」
 いくらか育って遊泳力のついてきた子供たちは、群れをなしてところかまわず泳ぎ回っていた。サアの言葉を理解しているとは思えない。
 数もへり、銀色に色づいてきた子供たちを食べてしまう心配はもうほとんどなかったが、僕は相変わらず空気中で呼吸をしていた。なぜか、再び肺を水でみたすのがおっくうでしかたがなかったのだ。ただ、出来る限り水に潜って暮らし、子供たちと共に遊んだ。肌をつつかせたり群れを散らしてみたりするのが本当に遊んでやっていることになるのかどうかはともかく、それなりに楽しかった。
 全く初めての経験だったが、自分もまた、彼、もしくは彼女らをかわいいと思っているのだという気がする。

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