空飛ぶバディネリ 『青い巣』(第13回/全16回) by AntennaMan
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空飛ぶバディネリ

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『青い巣』(第13回/全16回) by AntennaMan

『青い巣』(第13回/全16回) by AntennaMan

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 銀色の月が美しく輝く晩、水から顔を出して横になる僕の隣に、サアが仰向けで浮いてきた。
 子供が生まれて以来、彼女はいつも機嫌よくおしゃべりをしていたが、このところ僕との直接的な会話はほとんどなかった。悪いとは思っていたが、水中と水上では今までほどにはうまく話が出来ず、いつかはそれを責められるんじゃないかという気がしていた。それと、意味をなしているかどうかは別に、子供の世話や教育に忙しくしているサアに対して、僕が彼女に話したく思う諸々のことはどこかそりが合わなそうな気がしたのだ。
ムムこうやって空気で息をしていると部屋に水を溜め始めた頃のことを思い出すよ。そのうちサンゴでも増えたらいいと思わないか。サアに会うまでの僕はいやになるほど窮屈な恋愛観や女性観しかもっていなかった。斎藤に彼女を連れて来いよというとそんなこと出来るわけがないというのはどうしてだろう。空の底へ水の粒が沈んでいってそれが集まったのが海だって見方は詩的じゃないかい。今度みんなで海へ行こうかムム
 そんな言葉が、月を見つめる僕の頭に次々浮かんだが、どれもこれもうまく口をついて出なかった。
「ねえ」
サアが先に口を開いた。
「あたしね、もうすぐ死ぬの」
 いきなり飛び出した突飛な言葉におどろいてサアのほうに顔をむければ、暗く揺れる水面の下で、青白い光を浴びている彼女がいった。
「知ってるでしょ、そういうの。もう、赤ちゃん産んでからずいぶん経っちゃった」
 奇妙な程落ち着いたサアの口調のためか、やけに冷静に頭を巡らせた僕は、いくつかの魚の名前を思い浮かべた。一生に一度の産卵に全ての体力を使い果たして死んで行く魚の名前だった。
 しかし、それらは全部が全部必ず死ぬというわけではなかったはずだ。
「死ぬって決まっているわけじゃないだろう。そういう種類の魚がいるにしたって、サアはサアだし、こんなに元気じゃないか」
「うん、今はね。でも、わかるの。もうそろそろなんだろうなって」
「だめだよ、そんなこといったら。しっかり栄養つければきっと大丈夫さ。死ぬなんて考えちゃいけない」
 色を奪う月の光の中で、石像のように冷たく整ったサアの姿が水面下で鈍く光っていた。僕は彼女の体が沈んでいってしまうような気がして、慌てて言葉を継いだ。
「僕もまたすぐ潜れるようになるから、前みたいにいっしょに暮らそう。だから、死ぬなんていわないで」
 そういう僕の顔を優しい目でみて、サアは、しょうがないのよ、と静かにいった。
 僕はあることに思い当たり、彼女に尋ねた。
「もしかして、僕との子供を作らなければ大丈夫だったってこと」
 サアはさらに優しい目をして、卵はあたしの体が勝手に作り始めたのよ、とだけいった。彼女の体に腕をまわすことなど、とうてい出来なくなってしまう程の優しい目だった。
 頭の片隅からは、家具類が一斉に浮き出してしまってどうしようもなかった頃の記憶がザワザワ甦り来て、騒がしさに眠れない夜だった。

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