空飛ぶバディネリ 『青い巣』(第14回/全16回) by AntennaMan
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空飛ぶバディネリ

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『青い巣』(第14回/全16回) by AntennaMan

『青い巣』(第14回/全16回) by AntennaMan

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 それから一日もおかず、サアは著しい衰弱をみせはじめた。看病しようにも横たわらせるべッドはなく、水まくらをしてみたくてもあたりはみんな水だった。
 彼女のからだの色つやはおとろえ、鱗も剥がれやすくなって見た目にも痛々しかった。
 そのころから斎藤はほとんど寄りつかなくなったが、古沢は前よりも頻繁にやってきて栄養のつきそうな食べ物を差し入れてくれた。人が来ると物陰に隠れる子供たちを斎藤が見ることはなかったが、古沢はそれに気がついても、へえ、といっただけだった。
 今までほどうまくいかなかったが、僕は肺の空気を水に入れ換えて力なく漂うサアに寄り添った。死期を悟った者への献身的な介護は介護するほうの満足感しか残さないものだともいわれそうだが、どう思われようと、僕はサアに何かしたかった。せめて、水を飲ませてやったり、氷水の入った洗面器で絞ったタオルを額にのせてあげたかった。かけた布団の上からぽんぽんと叩いて隙間をなくしてやりたかった。
 しかしそれができなかった。献身的な心配はできても、それは彼女の負担を大きくするだけだった。
「ね、もういいのよ。どうせ死ぬんだから。それにこんな弱った体、見せたくないもの」
 『弱った体』と『人に見せたくない』を結びつけて彼女に教えたのは斎藤だった。彼はいったのだ。辛くて見てらんねえよ、と。
 しかし、鈍い僕が、それまでの彼女はいっさいそういった考え方を持ち合わせていなかったらしいということに気づくのには時間がかかり、彼をぶっ飛ばしてやろうと思ったころにはすっかり顔を出さなくなっていた。
 せめて生きている間だけでも楽しくしていようと思ってみたが、僕にも体をみせたくないという思いにとりつかれてしまった彼女とそうするのは難しかった。
 力なく水面近くを漂いながらも、懸命に元気な顔を作った彼女がいう。
「ね、いいこと考えた。あたしの体売ってよ。今ならまだ少しはお金になると思うよ」
 僕は、馬鹿なこというもんじゃない、といってサアに背を向け、涙をこらえながら気がついた。ひょっとして僕は、死ぬのが悲しいことだと彼女に教え込もうとしているのじゃないのか。彼女の今の状態は、哀れな状態なんだいうこともまた‥‥‥。
「ねえ、どうして。あたしだってあなたの役に立ちたいと思う。ただ、かわいそうに思われて死ぬのなんていや」
 背中に彼女の声を浴びながら、僕は返す言葉をみつけることが出来なかった。
「ねえ、なんとかいってよ」
 いうべき言葉が見つからないままにサアの方を振り返れば、僕を見下ろす彼女の前を子供たちの群れがひとつふたつ通り過ぎて行った。
 キラリキラリと身を翻して僕とサアの間を泳ぐ子供たちは、もうその数を数えられそうな程に少なくなっており、中には個体識別できるものさえいる。死ぬことと生き延びること、日々有りふれていたそんなことが、いつのまにかひとつひとつ一大事と化し始めている彼らの存在だった。しかしサアはそんな子供たちには目もくれず、非難を露にした表情のまま僕を見据えるだけだった。

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