空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』3

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『しずかちゃんの遺言』3

 『しずかちゃんの遺言』 (第3回/全__回)

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3.


 しずかちゃん調査の始まりは、一月の寒い日のことでした。
 このときまでに私が知っていたジャイアンはただ一人でしたが、しずかちゃんの調査にはスネ夫に雇われたたくさんのジャイアンが来ていました。もちろん、ジャイアンたちの本当の名前がみんなジャイアンということであるわけはなく、それぞれがそれぞれに別の名前を持っていました。けれどもみんなみんな、たくましく頼もしく、やさしく気のいいジャイアンでした。
 ジャイアンたちはみな、しずかちゃん調査のプロでした。百戦錬磨のプロたちでした。
 スネ夫にくっついて来ただけの私は、プロであるジャイアンたちにどう言って自己紹介したらいいのかさっぱりわかりませんでした。なので、そのときまでにスネ夫から言い渡されていた唯一の仕事内容を足がかりにして挨拶しました。
「こんにちは。お弁当係のタケコプターと申します」
 割合に立派な挨拶が出来たと思っています。

 お弁当係を名乗った私ではありますが、スネ夫からのアルバイトの話に「うん」と言って以来、調査の足手まといにならないようにと、懸命にしずかちゃん調査の準備をしました。
 月に数日程度のアルバイトなら大丈夫だろうと軽く考えて返事をしたことを少し後悔してしまいましたが、やはり、引き受けたからには、きちんとスネ夫の役に立ちたいと思ったのです。
 集中力を要する作業以外は、ほとんど一日中イヤホンをつけ、そこに繋がる小さな機械からエンドレスで再生され続ける音を聞いていました。
 それは、スネ夫に渡されたディスクからコピーした、しずかちゃんの声でした。スネ夫から「今度の調査までに覚えておいてね」と言われ、ハイハイとふたつ返事で受け取っていたものです。
「のびたさん」
「あぁ、きもちいい」
「えーっ?」
「のびたさん、ひどい」
「ごめんね。これからバイオリンのおけいこなの」
「あら?」
「あらぁ」
「えぇ? ドラちゃん、もしかしてそれ・・・」
「わぁぁぁ」
 最後の声は何か素晴らしいものを見たときのものだと思いますが、この「わぁぁぁ」と言うしずかちゃんの声は、本当に魅力的に聞こえました。
 ただ、これが安請け合いのツケとでいうものなのでしょうが、しずかちゃんの声を聞き始めて愕然としたのは、しずかちゃんの声を確実に聞き分けるには、しずかちゃんの声だけ聞いていればいいというわけではないということでした。
 スネ夫から渡されたディスクには、実にたくさんの声が入っていました。マーヤはもちろん、はるかもほのかもドレミもすみれもさくらももももすもももみかんも、ルンルンまで入っていました。
 私はその中からしずかちゃんと間違えてしまいそうなものを丹念に探し、ダイジェスト版を作って聞き込みました。
「のびたさん」が
「のびたくん」
になっていたり、
「あぁ、きもちいい」が「きもちいいよぉ」になっていたらすぐわかりますが、同じ
「あら?」
でもいろいろあるのです。
 私はスネ夫のファイルどおりの「わぁぁぁ」なら絶対に聞き分けられる自信があるところまでは来たつもりですが、「うわぁぁぁ」と言う声が聞こえたときに、その声の主がしずかちゃんかどうかを確実に判定できるかと言われると不安がありました。
 私は、しずかちゃんをよくドラ焼きを注文してくれるお客さんだと思いこむことにしました。電話でドラ焼きの注文を受けるときの相手については、第一声はおろか、その直前の気配だけでも、ほとんど完璧にわかるからです。
 この方法はとてもいい方法で、私はしずかちゃんの声をどんどん覚えることができました。いくつものシナリオを作って、こんなときしずかちゃんならなんて言うだろうと想像しながら、しずかちゃんの声を聞き込みました。何をしていても、誰と会っても、こんなときしずかちゃんならどんな声を出すだろうか、と考えました。
 スネ夫からホイと渡されたものも含め、文献も数多く調べました。
 ドラえもん全巻を揃えることは叶いませんでしたが、七割ほどは手に入れました。ふだんはほとんど見ないテレビの番組表も丹念にチェックしました。インターネット上にころがるたくさんの情報も、可能なかぎりあさりました。レンタルビデオショップにも何度も足を運びました。
 他に技術的な問題がありました。
 しずかちゃん調査には双眼鏡が不可欠とスネ夫から聞いていましたが、私のような初心者には、肉眼で見つけたものを瞬時に双眼鏡の視野の中心でとらえることだけでも難しいのです。フォーカスを遠近どちら側に調整すればいいかの判断も、練習を要することでした。
 また、しずかちゃん調査はこっそりやらなければならないと聞きましたので、身をかくすワザも習得しなければなりませんでした。
 私は首から双眼鏡をぶらさげて街に繰り出し、しずかちゃんのように髪をふたつにまとめている女の子を見つけるたび、素早くビルの陰に走り込んでは双眼鏡でとらえるという訓練をしました。隠れるビルがないときには、街路樹になりきってやりすごす練習をしました。
 何度かは強面の兄さんに殴られかかったり、おまわりさんに質問されて困ったりもしましたが、その甲斐あってだいぶうまくなったつもりです。

 前にも言いました通り、私のしずかちゃんに対する興味は、一般の人のそれと同じで、特別何に詳しいということはありませんでした。
 しずかちゃんの調査は、私にとって何から何まで始めてのことでした。私の知っていたアニメのしずかちゃんは、私たちが調べるべきしずかちゃんと相当違うことを知りました。
 これまでに私が調べた、私たちが調べるべきしずかちゃんについて、簡単にまとめてみます。

・しずかちゃんはお風呂が大好きである。
・しずかちゃんは長風呂である。
・しずかちゃんは真っ昼間でもなんでもお風呂に入る。
・しずかちゃんは入浴中にのぞかれることをとても嫌う。

 ここまでは一般常識と言っていいでしょう。
 これに、新たに知った知見を加えてみます。
 まず、おどろいたのはこれでした。

・しずかちゃんは、ひとりではないが、たくさんいるわけでもない。
・しずかちゃんを守ることは、国家の方針である。

 このことの意味を私はいったいどう受け止めたらいいのかさっぱりわかりませんでしたので、とりあえずは深く考えず記憶に留めるだけにしました。そうでないと、少しも先に進めないからです。

・しずかちゃんのお風呂場はとても広い。
・しずかちゃんのお風呂場には、必ず湯船がある。
・しずかちゃんが自慰をする場所は、だいたい決まっている。
・しずかちゃんがしずかちゃんのお風呂場から出ることはほとんどない。

 自慰についてまで調べられているとは思ってもみませんでした。
 最後のものついては、わけがわかりそうでわからなかったため、ジャイアンに電話をかけて尋ねてみました。が、たったひとこと帰って来ただけでした。
「おまえ、テレビの見過ぎだよ」
 その通りでした。
 頑張っていろいろ調べてみたとはいえ、私が把握しているしずかちゃん像の枠組みは、テレビアニメとその原作であるマンガ本によるものの域を少しも脱してはいないのでした。
 たくさんの時間をかけて調べ、そこそこわかった気になっていたのに、本物のしずかちゃんについて、自分が何一つ理解出来ていないことを思い知らされました。
 そんな、ほとんど打ちのめされた状態のまま、私は調査の日を迎えたのでした。

                             つづく...

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