空飛ぶバディネリ 『青い巣』(第16回/全16回) by AntennaMan

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『青い巣』(第16回/全16回) by AntennaMan

『青い巣』(第16回/全16回) by AntennaMan

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 僕は今、部屋の水を抜きにかかっている。
 子供達が流れ出てしまわないようゆっくりとだから、まだ幾日もかかるだろう。当面、急がなければならないのは、あの夜以来姿を見せないケガニを探すことだ。この先の彼の行く末は完全に僕の手中にあり、正直、どうしたらいいか悩んでいる。僕達の子供を随分食べてしまった憎い奴だとはいえ、つれなくはしたくない。僕とサアの生活への数少ない出演者のひとりだ。
 サアが編みかけていたテグスのセーターは、排水口にセットしてある。青と赤の糸はとうとう使わずじまいで、透明なそれはまるで網にしか見えないから網に使った。サアの編んだ網にサアと僕の子供がトラップされるのだ。
 もう、いくつか集まりだしている子供たちを拡大鏡でのぞいてやれば、僕やサアの面影をみてとることができるのかもしれない。でもそうする気はとうていおきなかった。見てしまえば、また新しい関係が始まってしまうからだ。
 サアの下半身、つまり魚の部分は、古沢がもっていった。いくらなんでも上は切り身になんねえ、と冗談をそえて引き取っていったのだ。側溝にはまっていた上半身は、渋る斎藤から借りた車で山へ行き、僕の手で埋めた。ただ、体が重くて深い穴は掘れなかったので、今ごろ犬にでも発見されてしまっているかもしれない。
 そうなるとおいおい警察がやってきて僕は取り調べを受けることになるだろう。道を尋ねたキノコ採りの地元の人に道端でお茶をごちそうになったりで、かなり目立った行動をとっているから知らんぷりは出来なそうだ。
 サアの体を埋めたあとに、明るい十月の陽射しの中で見ず知らずの人からお茶をごちそうになるのは、涙が出るほどに悲しくそして幸せだった。実際僕は、お茶の入った水筒のふたを持ったまま泣いてしまい、爪の先を真っ黒にした男や女達から、へんな兄さんだなあと笑われた。僕も泣きながら笑い、ますます彼らに笑われた。光に満ちたゴザの上はあっけないほどにスカスカの世界で、いささか下卑た笑い声も心地よく響く、そんな青い空の底だった。
 僕の容疑は死体遺棄かもしれないし、動物虐待かもしれない。しかしいずれにせよ、すぐ釈放してもらえると思う。どちらもあてはまらないからだ。
 ゴミの不法投棄の線もあるが、それならそれで素直に受けよう。この世にゴミにならないものなど何もなく、死んだ人魚の上半身などまさにそれだろうから。面倒なことはいやだ。
 気になるのは捨てるのではなく拾う方で、サアには、サアという名前を含めてずいぶんとたくさんいらないものを拾わせてしまった。これはいったい何違反になるのだろう。見当もつかない。
 警察は初めてだからどんな扱いを受けるのか知らないが、出てくるまでに時間がかかるなら、古沢に頼んで僕の子供のつくだ煮でも作って差し入れてもらうつもりだ。
 これからの僕は、魚だって食べられるようになろうと思う。小さいのから少しずつ始めれば、いずれはどんな大きなのでも食べられるようになるだろう。
 おそらく、古沢は彼女の下半身を塊のまま倉庫の片隅に隠してとっておいてくれている。僕のためかどうか知らないが、きっとそうだ。そこへ行き着くまでまだ少し時間はかかるだろうが、マイナス四十度なら心配ない。

 そう。愛があればなんでもできる。
 そんなふうに僕達は育てられたのではなかったっけ。

                       (おわり)

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