空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』5
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『しずかちゃんの遺言』5

 『しずかちゃんの遺言』 (第5回/全__回)

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5.


 翌日、いよいよしずかちゃん調査が始まりました。
 ジャイアンたちは、それぞれの持ち場に分かれてしずかちゃんの観察を開始しました。観察地点に一日中はりつき、あたりにくまなく視線をめぐらしながらしずかちゃんの姿が見えるときをじっと待つのです。
 しずかちゃんの姿を確認したら、それがたとえ指先だけであろうと、時間と場所を記録します。どこからどこへ向かったのかを地図上に記録します。可能ならそのときしずかちゃんが何をしていたのか、何をしようとしていたのかを記述します。
 そういったデータをたくさん集め、しずかちゃんのお風呂場の全体像としずかちゃんの生活スタイルを把握しようというのです。
 そして、特に大切なことは、しずかちゃんの湯船のありかにかかわることでした。湯船とは、しずかちゃんのお風呂場をお風呂場たらしめる決定的な理由です。しかし、今回私たちが調査するお風呂場の中の湯船のありかは、未だ謎に包まれたままなのでした。

 ジャイアンたちは、どんなに寒くても決して持ち場を離れようとはしませんでした。しずかちゃんが通りがかるのをじっとじっと待ち続けました。それがジャイアンたちの仕事ですし、ジャイアンたちはプロでした。
 私の仕事は、ジャイアンたちのお弁当の買い出しから始まりました。
 前の日の晩、私はジャイアンたち全員のところをまわり、準備すべき弁当をリストアップしました。その健康状態や体重から必要なカロリーを計算し、普段の食べる量や好みを検討して二十人分それぞれのお弁当を決定しました。
 季節は冬です。しずかちゃん調査には過酷な時期なのです。
 私はそのリストに基づいてそれぞれのジャイアンのためにお弁当を準備し、さめてしまわないよう時間に気を遣いながら、届けてまわりました。
 あまりに寒いため、カイロも配ってやったらどうだろうとスネ夫に提案しましたが、
「なんで僕たちがそんなことしなくちゃならないの」
と、ちょっとむっとされてしまいました。

 スネ夫は、ときに私と一緒に、ときに私とは別々になって、「監督」というのをしていました。
 労力としては私のおべんとう配りと大して変わらないものでしたが、これはスネ夫が受けたスネ夫が主役の仕事ですから、そこには重い重い責任というものがつきまとっていました。
 責任とは何かというと、ひとつは、ジャイアンたちがさぼっていたり、誰かとケンカしたり、大声で歌を歌っていたりしないか、見張ることです。私は、ジャイアンたちがさぼるようなことはしないだろうと信じていましたが、つい大声で歌ってしまうことはあるかもしれないなと思いました。
 また、もうひとつ大事なのは、ジャイアンたちにきちんと看板を持たせることでした。
 しずかちゃん調査は国家の方針にもかかわる仕事です。今回の仕事のお金の出所こそ、国ではなく、出木杉くんの勤める会社が窓口でしたが、実情としては同じようなことでした。ジャイアンたちが、ちゃんと看板を持つということはとても大切なことなのでした。
「ちゃんと看板を持ってなけりゃ、ただのノゾキでしょ」
 そんなスネ夫の言葉は、納得がいくようないかないようなものでしたが、その言い切りっぷりには有無を言わせぬものがありました。
 その他の責任についてもスネ夫は得意そうに話していましたが、私の本業に照らし合わせてみれば、ふつうにちゃんとドラ焼きを作るということと、特に違いがあるようなことではありませんでした。

 お弁当係を名乗る私ですが、それが仕事の全てであるはずもなく、ノート片手にジャイアンのところを巡回して情報伝達の役割をしました。
 その他の時間は、スネ夫の指示にしたがってお風呂場の中をこっそり歩き回り、しずかちゃんの声に耳を澄ませました。また、「証拠写真もお願いね」と言うスネ夫の言いつけで、ジャイアンの仕事をしている様子の写真をとってまわりました。
 実は、スネ夫の命令に反して、調査中のジャイアンは看板を持っていませんでした。私にはそれが何故だかよくわかました。
 「調査中」と書かれたその看板はピンク色で、縁には四十個ほどのハート型のパーツがぐるりとくっついていました。棒の中程にあるスイッチをオンにすると、そのパーツの中にある電球がピンクに点滅しました。絶対にノゾキとは間違えられない良く出来たものなのですが、実際の調査には目立ちすぎて邪魔なのでした。
 スネ夫もそれはちゃんとわかっているので、黙認していました。けれど、証拠写真を撮るときだけはちゃんとジャイアンに看板を持たせるよう私に指示をしました。
「こればっかりはちゃんとしてくれないと、僕が出木杉くんに怒られちゃうんだからね」
 とはいえ、プロのジャイアンたちはもう慣れたものですから、私がカメラを取り出せば、黙っていても看板を手にかかげ、笑顔でスイッチを入れました。

 調査は本当に過酷でした。
 私の一日の最後の仕事は、ジャイアンたちに調査時間が終わったことを告げ、連れて帰ることでした。スネ夫は「ジャイアン回収」と呼んでいましたが、これが思いの外たいへんでした。
 板塀の節穴からのぞいていたジャイアンは、穴に目が凍りついてしまっていて、ひきはがすのに苦労しました。雪に埋もれたジャイアンは掘り出す必要がありました。直立不動の姿勢で凍ったジャイアンは、そのままロープに繋ぎ、引きずって運ぶしかありませんでした。
 凍ったジャイアンは全部で六人になり、私ひとりでは到底運べませんでしたが、嬉しいことに凍っていないジャイアンが手伝ってくれました。
 私はつい、
「たいへんな仕事なんだねえ」
と言ってしまいましたが、ジャイアンは文句ひとつ言いませんでした。
 それがジャイアンの仕事であり、ジャイアンはプロだからです。

 二日目から、私は早起きをすることになりました。
 早起きのしずかちゃんは、目覚ましなどかけずに夜明けと共に起きるのだそうですが、そのとき、「ふあぁぁぁぁ」と言う声を発するに違いないとスネ夫が思いついたのです。
 スネ夫は、思いつきをすぐ実行に移すクセがありました。そのため、私ひとりが暗いうちにしずかちゃんのお風呂場に行き、目覚めの声に耳を澄ませることになりました。
 スネ夫のディスクに目覚めの「ふあぁぁぁぁ」は入っていなかったので、私はジャイアンにも一緒に行って欲しく思いました。が、スネ夫は、
「ジャイアンには頼めないよ。追加手当を要求されるからね。大丈夫、聞けばきっとわかるから」
と言いました。
 皆が寝静まっている中、私ひとりが起き出して指定された場所に向かいました。暗くて道が見えないことはスネ夫の思いつきに含まれていませんでしたので、私は泥棒さながらの懐中電灯の使い方で道を確かめながら目的地にたどりつきました。
 明かりを消すと、そこは真っ暗闇でした。
 真冬の真っ暗闇の中、私はただじっと立ち続けました。
 ガチガチ音がし始めたので何かと思ったら、自分の歯がたてる音でした。私が寒くてふるえることも、スネ夫の思いつきには含まれていなかったのでした。
 私はガチガチしながらじっと朝日が昇るのを待ちました。体がカチンコチンに凍ってしまいそうな気がしました。
 暗闇はしだいにブルーがかり、ミルク色になり、もやが流れ、朝がきました。オレンジ色の光が私の体に差し込みました。
 何も聞こえませんでした。
 というか、ガチガチいう音がうるさくて、なんにもわかりませんでした。
 ガチガチし終わった私は、前の晩にスネ夫から受け取っていた朝食用のおにぎりを食べました。おにぎりはガチガチに凍っていました。

 しずかちゃんのお風呂場はとてつもなく広く、くまなく知ることはまず出来ません。しずかちゃんはのぞき見を非常に嫌うので、私たちにできることは極めて限られていました。が、三日間の調査で、いくつかしずかちゃんの目撃情報が集まりました。
 そのデータの価値がどれほどのものか私にはわかりませんでしたが、この季節、初回としてのデータ量はまあこんなもんだろうというもののようでした。
 私自身は、しずかちゃんの声を一度も聞けなかったことを恥じていましたが、実際のところしずかちゃんの目撃は六人のジャイアンだけによるもので、あとのジャイアンは、「その日その場所から見える範囲にしずかちゃんが来ることはなかった」という成果だけを持ち帰って来ました。
 私は、しずかちゃん調査というものはしずかちゃんをひと目見ることさえままならないとても困難なものなのに違いないと、自分を慰めました。
 ミーティングのとき、ジャイアンが冷静な口調で言いました。
「まあ、あそこ周辺はしずかちゃんが今現在も使っているお風呂場だというところまでは間違いないな」
 スネ夫は、
「うん、そうだね」
と言いました。
 次の調査の予定日を確認し、私たちは解散しました。

 ごめんなさい、しずかちゃん調査のことは、手紙の話をしながら少しずつふれるだけにしようと思っていたのに、すっかりそればかり話してしまいました。
 本当は、私は手紙のことは話したくないのです。
 今、手紙のことを話そうとしているのは間違いないし、手紙の話をしなくちゃと思っていることも間違いないのですが、でもやっぱり、手紙の話は話したくないのです。
 なんと言って説明するのがいちばんいいのかよくわかりませんが、ひとつには、その手紙の話が嫌いだというのがあります。
 なのになんで手紙のことを話そうとしているかというと、どんなおしゃべりにしても、中身というか意味というか、そんなようなものをちゃんと入れておかないと、だらだらするばっかりで聞いていただけないんじゃないかという恐れのようなものがあるからです。
 もうひとつは、その手紙を受け取ったこと自体が、私の今までの生活からあまりにかけはなれた出来事であって、うまいこと話せそうな気がしないからです。どこか、私の話になじまないような気がするのです。単に話す順番の問題なのかもしれませんが、どんなふうに話したらいいか、いまひとつよくわからないのです。
 いえ、別に手紙のことそれ自体は、他人にはそうたいした話ではないです。たいした話じゃないのですから、別にもったいぶっているわけでもありません。むしろ私は、手紙のことをきっかけにして、遺言の話こそをちゃんと話したいと思っているのです。
 ただ、話したい話と、話す必要のある話と、話してしまう話のバランスというか、兼ね合いというか、そんなのがよくわからなくて、どうもうまくいかないのです。
 私はタケコプターですから飛ぶときのバランスに関してはすっかり身に付いているのですが、おしゃべりのバランスとなると、どの程度うまくとれるのか見当がつきません。
 すいません。言い訳がましいことを言ってしまいました。
 でも頑張ってみます。
 なので、もうちょっと待ってください。
 ともかく、少しずつでも手紙の話に近づいて行きたいと思います。



                             つづく...

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| | 2008年02月09日(Sat)08:05 [EDIT]


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