空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』6

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『しずかちゃんの遺言』6

 『しずかちゃんの遺言』 (第6回/全__回)

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6.


 スネ夫が受注したしずかちゃん調査の依頼者は、出木杉くんの勤める会社でした。流れるプールのある温泉センターを建設する会社でした。
 元々は国営だったのですが、時代の流れで最近民営化されました。より気持いい暮らしをしたいというみんなの願いを受けて、みんなが楽しく使えるお風呂場を作るのが会社の目的でした。
 私がスネ夫に連れられて行った土地で温泉センター建設の計画が最初に動き出したのは、もう十年以上も前のことだそうです。以前から、地元の人たちはそこでしずかちゃんが暮らしていることを知っていましたが、誰だって生きていればそれぞれの関係をもったそれぞれの暮らしがあるわけですから、何も特別なことではありませんでした。
 が、計画半ばにして、しずかちゃんを守ることが国の方針となりました。国家の方針ということは、みんなの願いです。多くの人は、自分たちにしずかちゃんを守りたいという願いがあることなどそのときまで知りませんでしたが、アニメのしずかちゃんしか知らなければ無理もない話です。
 ともあれ、国家の方針により、しずかちゃんをないがしろにすることなく、温泉センターを作らなければならないことになったのでした。
 私たちは温泉センターに通わなくても生きて行くことは出来ますが、しずかちゃんはしずかちゃんのお風呂場がないと生きて行けません。ひとりでゆっくり入れるお風呂が必要なのです。混浴なんてもっての他です。
 しずかちゃんのお風呂場はしずかちゃんしか使えません。中に入れば迷うし、屋根がないし、駐車場もマッサージルームも卓球場もないし、生ビールが冷えているわけでもありません。そもそも、しずかちゃんサイズの湯船がお風呂場のどこかにひとつあるだけですので、これでは、どうしようもないのでした。日々忙しく暮らす私たちにとって、巨大な迷宮のようなしずかちゃんのお風呂場をそのままの状態で使いこなすのは、どう考えても無理なのでした。
 なら、どうしたらいいか。
 私は、その答えを探すためにしずかちゃんの調査が行われることになったのかと思ってスネ夫に尋ねてみたところ、スネ夫は不思議そうに私の顔をのぞき込んで、こう言いました。
「温泉センター建設にはね、しずかちゃん調査が義務付けられてるんだよ」

 ところでスネ夫は、役人と呼ばれる人たちを馬鹿にし、スネ夫ママに対してと同じく、いっつも悪口や文句ばかり言っていました。つまり、スネ夫は役人が大好きでした。
 なのでスネ夫は、国とかそれに類する出木杉くんの会社のようなところから受ける仕事も大好きでした。そんな仕事の話をしているときのスネ夫はとても得意そうで、顔を少し空に向けて、目だけで斜め下を見下ろすという、誇り高いポーズをとりました。
 目の前のお客さんや、将来お客さんになってくれるかもしれない人ひとりひとりに向けてドラ焼きを作るという私のような仕事を見下すようなことはなかったと思いますが、自分の仕事は特別だという感じは、どこかしら持っていたようです。

 さて、月に一回の調査は計画表どおりに進行し、しずかちゃんの目撃例も少しずつ増えてきました。
 受け持ちの地点によるものでしょうが、しずかちゃんをまだ一度も見ていないジャイアンもいて相当機嫌が悪そうでした。が、こればかりはしかたありません。
 私はといえば、調査の合間に何度かスネ夫に呼ばれてスネ夫ママに行き、しずかちゃん調査のデータを整理する手伝いをしました。
 スネ夫ママにある大きなコンピュータ画面には何やらよくわからない図形が表示されていて、スネ夫は、
「しずかちゃんだよ」
と言いました。
「まだデータが少ないから、わかりずらいけどね」
 その他の日々、私は時間をみつけては、しずかちゃん調査に必要な知識や技術を身につけるための勉強とトレーニングを続けました。
 ジャイアンのようになれるとは思いませんでしたが、ジャイアンたちプロがかわす話の内容を理解出来るくらいにはなりたいと思いました。
 日々ドラ焼きを作り、双眼鏡を片手に街へ繰り出し、しずかちゃんの声を聞き続けました。もともとあまり好きではなかったドラ焼きの営業が、ついついおろそかになってしまっていました。
 しずかちゃん調査が、確実にドラ焼き作りの仕事を圧迫していました。

 しずかちゃんのデータがいくらか集まってきたその頃から、調査の力点に湯船探しが加わっていました。
 スネ夫は、「しずかちゃんが自慰をする場所を探してください」と言い、そこが重要確認事項のひとつでした。なぜなら、過去の様々なしずかちゃんの調査により、この季節のしずかちゃんはほぼ決まった場所で自慰をし、そのあと、ほどなく湯船につかることがわかっているからです。必ず隠れた場所にある湯船に比べ、自慰をする場所ははるかに見つけやすいのだそうです。
 スネ夫は、
「しずかちゃんが自慰する場所を確認したら、その地点はGスポットと呼びましょう」
と言い、ジャイアンたちの顔色を見回しながら三回繰り返しました。
 三度目はフェードアウトしました。
 こういうことはよくありました。
 スネ夫は悲しいくらいジョークの通じないやつでありながら、自分のジョークだけは何度も繰り返してしまうという、ひとも自分も寂しくさせるクセがありました。
 が、私は少し感心していました。ふだんのスネ夫のユーモアの発露は、似た発音を使ったダジャレを言うこと以外にありませんでしたが、今回はちょっぴりとはいえ意味もかすっていたように思えたからです。

 実は私は、二月の調査の途中で早々とお弁当係をクビになっていました。
 クビというか、お弁当を配って回る必要がなくなってしまったのです。
 それにはこんな事情がありました。
 スネ夫は、調査中、毎日ジャイアンのいないところで怒りまくっていました。
 スネ夫は文句を言うのが大好きだったので文句を言いながら怒りまくったところで別に驚くようなことではありませんでしたが、今回は私の仕事にもかかわる重大なことでした。
「ねえ、なんで僕たちがお弁当配りしなきゃいけないの? これってへんでしょう? ねえ?」
 お弁当を配っているのは私で、それを命じていたのはスネ夫だし、お弁当代もジャイアンからちゃんともらっていましたから、私にはなぜスネ夫が怒っているのかわかりませんでした。
 そしてジャイアンでなく私に向かって怒っている理由もさっぱりわかりませんでした。
 そもそも、私がジャイアンたちのお弁当を仕入れて配って回るという段取りは、スネ夫と私とで決めたものでした。しずかちゃんのお風呂場の近くにはお店がないため、どっちにしろ巡回してまわる必要のある私がお弁当を仕入れて運ぶのが効率的にも一番いいのです。
「お弁当なんて、早起きして調査前にコンビニに行って買えばいいことじゃない。そう思わない? ねえ?」
 ならば、そうにジャイアンに言えばいいだけのことだろうと思いましたが、何か、全然別のこともごっちゃにして文句を言っているようでありました。
「ねえ、なんでぼくたちがお弁当配りなんかしなきゃいけないの? これってへんでしょ? ねえ。ジャイアンたちの調査能力は認めるけど、こういうのって、仕事に協力する気持が足りないってことじゃないの? この仕事は僕の仕事なんだよ。あの出木杉くんからまかされた、とっても大事な仕事なんだよ。それなのになんで僕がお世話係みたいなことしなくちゃいけないのさ。僕は、報告書を書いたり、今後の調査の進め方のこととかを心配しなくちゃならないんだよ。ねえ。もっとみんなの僕に協力する気持があってもいいんじゃない? でしょ? そうじゃない? ねえ、ねえ」
 私は、「お弁当配りなんか」と言われたことに少々むっときましたので、
「ジャイアンたちにいい仕事をしてもらえるように状況を整えるのも、大事な仕事なんじゃないの? いい結果がでなけりゃ困るでしょ」
と言いましたが、スネ夫は聞く耳をもちませんでした。
「馬鹿なこと言わないでよ。僕はジャイアンのマネージャーなんかじゃないし、友達関係で調査を手伝ってもらってるってわけでもないんだからね。僕がジャイアンを使ってるんだ。ジャイアンたちが決まったお金でどこまでやってくれるのかを試してるんだよ。それなのに、なんでこの僕がお世話係みたいなことなんかしなけりゃならないのさ。へんだと思わない? ねえ?」
 私はジャイアンとスネ夫は昔から心の友同士だったと思っていたので、このスネ夫の言葉は意外でした。「決まったお金で」という、仕事上の契約ならではの言い方はしたものの、ジャイアンたちを家来のよう扱いたいといった様子が見え隠れしました。今までそれは、仕事を進めるにあたっての秩序維持のためポーズや命令系統の確認のためかと思っていましたが、どうやら本心からそういう関係にあるべきと思っているようでした。
 でもまあ、それもスネ夫のスネ夫らしいところだと言ってしまえばそれまでです。いったん仕事から離れれば、スネ夫がどう思おうとジャイアンがスネ夫の家来でいるはずはないのですから。
 とはいえ、私のこの場でのアイデンティティーに関わるお弁当係りの廃止に関してはどうしても腑に落ちませんでしたので、あとでジャイアンにきいてみました。
「ねえ、ジャイアン。朝、お弁当をもって出るなんてことになったら困るよね」
「いや別に。どうして?」
「だって、お弁当が凍ってしまうじゃない」
「バーカ。ランチジャー使うに決まってるだろ」
 まあ、そんなことがあった末、調査後のミーティングのときに一大決心をしたらしいスネ夫がすっくと立ち上がり、拳をぎゅっとにぎって少しふるえ声で言いいました。
「こ、こ、今回からは、調査効率向上のため、お、お弁当は、か、か、各自で準備するようにしてください。お弁当配りは廃止します」
 スネ夫のうわずった必死な声に、何事かといった表情でいっせいに顔をあげたジャイアンたちでしたが、
「あいよ」
と、こともなげに言い、書類に再び目を落としました。
 次の日から、ジャイアンたちはそれぞれ自分たちでランチジャーにほかほかのお弁当を準備して調査に向かいました。
 ランチジャーを持っていなかった私の凍りかけたおにぎりを見たジャイアンが、温かいみそ汁を分けてくれたのがとても嬉しかったです。
 スネ夫もランチジャーは持って来ていなかったはずなので、どこかのジャイアンに温かいものを分けてもらっていたらいいのにな、と思いました。



                             つづく...

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