空飛ぶバディネリ 『しずかちゃんの遺言』7

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『しずかちゃんの遺言』7

 『しずかちゃんの遺言』 (第7回/全__回)

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7.


 「監督」の仕事に専念していたスネ夫が、いよいよ動き出しました。
 スネ夫に決断させたのは、ジャイアンによるしずかちゃんの自慰の報告でした。
 そのジャイアンは、自分の持ち場から三百メートルばかり離れた場所にいたしずかちゃんが自慰を始めたのを確認するやいなや、長さ一メートルもある巨大な望遠レンズ付きカメラを片手にお風呂場の壁をよじのぼり、立ち並ぶ柱の上を飛び越えて渡り、金色に光るライオンの像の陰に身をひそめました。そして、灯籠の下のしし脅しのわきでひっそりと自慰にふけるしずかちゃんの近距離撮影に成功したのです。ジャイアンならばこそのワザでした。
 これで湯船がある範囲が限られてきました。自慰のあと、しずかちゃんは湯船に飛び込んでつかります。なので、湯船は自慰をした場所から行きやすいところでなければならないのです。
 その晩のミーティングで、撮影に成功したジャイアンはヒーローでした。しずかちゃん調査の経験豊富な他のジャイアンたちの中にも、実際に自分の目でしずかちゃんの自慰を見たことのあるジャイアンは何人もいませんでした。
 スネ夫はジャイアンの写して来た数十枚の写真を丹念にチェックし、
「これはボケてるねえ、このアングルだと肝心なところがよくみえないな。あ、これは結構いいかも。やっ、こいつは使えるぞ。ねえジャイアン、これすごくいいよ。早速今晩の作業に使わせてもらっていい?」
などと言っていました。
 私は自分もこの目でしずかちゃんの自慰を見たかったと思い、ジャイアンのことを心底うらやましく思いました。

 私たちは、冬の間になんとしてもしずかちゃんの湯船を確認する必要がありました。
 冬ならば、湯船から湯気が立ちのぼります。
 遠くから見えるほどの湯気ではないはずですが、他の季節より遙かに見つけやすいはずです。
 そして、この季節ならばしずかちゃんはじっくり湯船につかっているにちがいないのです。
 ただ、湯船探しは慎重にやらなければなりませんでした。
 しずかちゃんが入浴しているところをのぞかれていることに気付いたら、しずかちゃんはもう、そのお風呂に入らなくなってしまうでしょう。
 そうしたら、しずかちゃんは臭くなってしまいます。
 臭くなったしずかちゃんは、このお風呂場を出てどこかへ行ってしまうはずです。そして、どこにも新しいお風呂を探せなければ、しずかちゃんはそのうち死んでしまうに違いありません。
 たいへんなことになってしまうのでした。

 翌日、スネ夫は湯船探しが得意なジャイアンをひとり連れ、しずかちゃんのお風呂場の最深部へ潜入を開始しました。
 しずかちゃんの湯船は大理石なのか、それとも御影石なのか。セラミック製かもしれないし、案外ステンレスやホーロー引きだったりするかもしれません。桜や松の板を合わせたものかもしれないし、桧づくりかもしれません。
 これまでの調査データの蓄積から、しずかちゃんの湯船はしずかちゃんの体にちょうどいいサイズだということがわかっています。というより、それだけしかわかっていません。温泉ホテルの大浴場のような、百人も入れるような大きさではないのです。
 その話は私にとってしごく納得の行くことでした。
 たしかにアニメ映画で冒険するしずかちゃんは、とてつもなく広いお風呂につかってくつろいだりすることがあります。
 けれどもここは、そんな冒険の果ての地ではなく、しずかちゃんが日々の生活を送るプライベート空間なのです。
 毎日毎日の営みそのものの中で、しずかちゃんが体を休め、心を癒す湯船なのです。

 その日からスネ夫と湯船探しが得意な湯船ジャイアンは、くたくたになって基地に戻って来るようになりました。スネ夫は監督の仕事そっちのけでしたが、スネ夫が監督をしようがしまいが、ジャイアンたちは着々とデータを集めていましたし、看板を持った証拠写真撮影も全く問題はありませんでした。
 湯船こそなかなか見つからないものの、ふたりはたくさんの武勇伝を持ち帰ってきました。濃い霧の中の階段を昇っていったらそこから先は断崖絶壁だったとか、林立する柱を飛び渡っているとき危うく落ちかけたとか、石けんで滑ったけどなんとか転ばずに済んだとか、突然すぐ近くでしずかちゃんの声が聞こえ、とっさの機転で観葉植物になりきってやりすごしたとかであり、そんな話は、ときにスネ夫のインディー・ジョーンズの扮装がぴったりで、ときに湯船ジャイアンの出歯亀の格好がぴったりでした。
「まったくあんな危険なことばかりさせやがって、おれを殺す気かよ」
 湯船探しが得意でなおかつ大好きなジャイアンは、言葉の内容と裏腹に楽しそうな口調でそう言っていました。
 スネ夫は本当に張り切っているようでした。
「湯船を見つければ大手柄なんだよ。出木杉くんだって大喜びするよ」
 けれど、湯船ジャイアンにむかってぶっそうな話もしていました。
「ねえ、ジャイアン。絶対にケガしないでよね。もしケガしたら、すぐに家の近くの病院に運ぶから、自分ちの階段から落ちたってことにしてよね」
 スネ夫がそういうことを言うのをわかりきっているらしい湯船ジャイアンは、ニコニコしながら、
「はいはい。死にそうなことさせといてよく言うよ、と思うけどね」
と言っていました。
 私にはなかなか奇異な話に聞こえましたが、監督というのが仕事のスネ夫にとっては、ジャイアンのケガは出木杉くんに怒られる原因を作ることであり、最悪の場合、監督不行届というやつで、「もうきみには仕事をお願いしないから」と言われてしまう危険があるのです。
 さすがに死んだりしたら家で死んだことにするわけには行かないでしょうが、そんなときスネ夫が「僕が頼んだ仕事で死なせてしまってごめんなさい」というか、「何で死んだりするのさ。死んでまで迷惑かけないでよ」というかには、興味がありました。
 私も似たことを考えたことがあったからです。誰かが私のドラ焼きの食べ過ぎで死んだとき、自分は心のどこかで喜びを感じたりするのだろうか、と。

 ところで私は、相変わらず毎朝ガチガチしていました。
 タオルを口いっぱいに詰め込んでおけばガチガチいわないことを発見しましたが、真っ暗闇で、ひとりタオルをくわえてじっと立っていると、どうしようもない寂しさに襲われることも発見しました。



                             つづく...

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